「AIで誰でもきれいな文章が書ける時代に、ガクチカは意味があるのか」。答えは、意味は残るが評価の重心が動く、です。生成AIを活用する企業の新卒採用担当者を対象にした調査では、75.9%がガクチカの評価が変わったと回答しています。この記事では、何の価値が下がり、何の価値が上がるのかをデータで整理し、残りの学生生活で積むべき経験まで落とし込みます。
この記事でわかること:
- 企業側の評価がどう変わっているか(公開調査のデータで確認)
- 評価されにくくなるガクチカの型と、されやすくなる型
- AI活用経験を今から作り、面接で語れる形に言語化する方法
結論:「整った文章」の価値が下がり、「経験の中身と使いこなし」の価値が上がる
構造は単純です。学生の8割超が就活でAIを使い(マイナビ2027年卒調査で84.9%)、文章の完成度はAIで底上げされて差がつかなくなりました。すると企業の評価は、AIで作れない部分に集中します。
- 下がるもの: 文章のうまさ、型どおりの構成、肩書きの立派さといった「表面の完成度」
- 上がるもの: 経験の中身(何を考え、何を判断したか)、深掘りへの応答、新しい道具を使いこなす姿勢
- 変わらないもの: 事実に基づいて自分の言葉で語れること。ここが崩れると他のすべてが無効になる
不安になる必要はありません。この変化は、肩書きや題材の派手さで勝負できなかった学生にとって、むしろ追い風です。以下で根拠と具体的な動き方を示します。
データで見る企業側の変化
アカリクが2025年10月に公表した調査(生成AIを積極活用する企業の新卒採用担当者112名対象)から、変化の輪郭が見えます。
| 調査項目 | 結果 |
|---|---|
| 新卒採用戦略を見直した | 約9割 |
| 学生に求める能力が変化した | 84.0% |
| ガクチカの評価が変化した | 75.9% |
| ガクチカで重視する点(上位) | 新しいツールへの適応力65.9%/創造的な取り組み56.5%/テクノロジー活用経験41.2% |
| 重視する能力(上位) | プログラミングスキル63.8%/創造性・発想力43.6%/生成AIツールの活用力40.4% |
読むときの注意が1つあります。この調査の対象は「生成AIを積極活用する企業」の担当者であり、全企業の平均ではありません。いわば変化の先頭集団の数字です。ただし、先頭集団の今は数年後の標準になりやすく、学生側でもAIの普及で就活に変化が生じたと答えた人が62.6%(マイナビ27卒調査)に達しています。方向として、この変化を前提に準備するのが合理的です。調査データを読むときの注意点そのものは就活生のAI利用実態で詳しく解説しています。
ガクチカはどう変わるか:下がる型と上がる型
評価の重心の移動を、ガクチカの型で対比します。
| 評価されにくくなる型 | 評価されやすくなる型 | |
|---|---|---|
| 文章 | 起承転結が整った美文(AIで量産可能) | 多少不器用でも、固有の事実と数字がある |
| 役割 | 「副代表を務めた」という肩書きの提示 | 肩書きと関係なく、自分の判断と行動が特定できる |
| 題材 | ありふれた活動を一般論で締める | ありふれた活動でも、独自の問いや検証がある |
| 道具 | 手作業の頑張りを美化する | 道具で省ける部分は省き、人間にしかできない部分に注力した形跡 |
重要なのは、題材の派手さは左右どちらの列にも入っていないことです。カフェのアルバイトでも留学でも、右の列の条件は満たせます。実際、平凡な題材が対話によって右の列に変わる過程はガクチカのAI壁打ち実例で全記録を公開しています。
この移動が起きる理由も押さえておきましょう。書類の文章はAIで整えられるため、企業は文章から本人の実力を推定しにくくなりました。その分、検証の場が面接の深掘りに移ります。「その判断はなぜ?」「他の選択肢は?」という質問に、書類と矛盾なく、自分の語彙で答えられるか。つまりAI時代のガクチカは、書く力の勝負から、書いた内容を口頭で検証される勝負に変わったのです。
評価される経験の3類型
調査で挙がった「適応力・創造性・テクノロジー活用」を、学生が実際に積める経験に翻訳すると3類型になります。
- 道具を使いこなして成果を変えた経験。生成AIに限りません。サークルの出欠管理を表計算の関数で自動化した、アルバイト先の発注メモをアプリで共有化した、ゼミの文献整理にAIを使って議論の時間を倍にした——「新しい道具への適応力」はこの粒度で示せます
- 正解のない課題に自分で問いを立てた経験。指示された課題をこなすのではなく、「そもそもこれは問題では?」と自分で設定した課題です。前例のないイベントを小さく実行した、慣習になっていた手順を疑って変えた、など。創造性の評価はここで決まります
- 人を巻き込んで前に進めた経験。説得、調整、温度差のあるメンバーへの働きかけ。AIで代替されにくい対人の動きは、むしろ相対的に価値が上がっています。文化祭の出店で乗り気でないメンバーの担当を組み替えて全員が動ける形にした、といった地味な調整で十分です
自分の手持ちの経験を3類型に振り分けてみて、空いている類型があれば、それが今学期に作るべき経験です。3つすべてを1つのエピソードで満たす必要はなく、類型ごとに小さな実例が1つずつあれば、面接の異なる質問に別々の引き出しで答えられます。
よくある誤解2つ:全員エンジニア化でも、経験の総取り替えでもない
この種の調査結果は、極端に解釈されがちです。先回りして2つの誤解を解いておきます。
1つ目は「プログラミング63.8%という数字を見て、文系も全員開発を学ぶべきだ」という解釈です。この数字は生成AIを積極活用する企業の重視傾向であり、すべての職種の採用要件ではありません。営業職や企画職の選考で問われるのは開発力そのものより、「新しい道具を怖がらず、目的に合わせて使えるか」という姿勢です。数週間の付け焼き刃の学習より、手持ちの活動での道具活用の実績1つのほうが、面接では強い材料になります。
2つ目は「これまで積んだ経験が無価値になる」という悲観です。表で見たとおり、変わったのは題材の価値ではなく見られ方です。同じサークル経験でも、「副代表としてチームをまとめました」は弱くなり、「練習参加率のデータを取ってみたら、辞める人の共通点が見えた」は強くなる。過去の経験は捨てるものではなく、問い・判断・検証の角度から掘り直すものです。掘り直しの具体的なやり方が、次章と壁打ちの実例記事にあたります。
AI活用経験は、就活をしながら作れる
「テクノロジー活用経験がない」と感じる人に最短の作り方を示します。実は、いまやっている就活そのものが素材になります。ESの壁打ち、面接練習、企業研究でAIをどう使ったか。どの提案を採用し、どれを却下したか。これは「新しい道具を目的に合わせて使い、出力を鵜呑みにせず判断した」経験そのものです。
ただし「AIを使いました」だけでは評価されません。むしろ丸投げの疑いを持たれます。語る価値があるのは、何を道具に任せ、何を自分で判断したかの切り分けです。次のプロンプトで、この切り分けを言語化できます。
あなたは新卒採用の面接官です。私の「道具(AIやデジタルツール)を
使った経験」を、面接で語れる形に言語化する手伝いをしてください。
手順:
1. 次の3点を1つずつ順番に質問する
- 何を自動化・効率化したか(道具に任せた部分)
- 何を自分で判断したか(任せなかった部分とその理由)
- 使う前と後で、何がどれくらい変わったか
2. 私の回答が「便利だった」のような抽象で止まったら、
具体的な場面を聞き返す
3. 最後に「目的→切り分けの判断→結果→他で再現するなら」の順で
話す60秒の骨子を、私が話した言葉だけを使って組み立てる
制約: 私が話していない成果や数字を勝手に足さない。
私の経験: 【例: ゼミ発表の文献整理にAIを使った、など1〜2行】
設計の要点は2つです。質問の軸を「任せた/任せなかった」の切り分けに固定しているのは、企業が見たいのが操作スキルではなく道具との距離感だからです。「私が話した言葉だけを使う」制約は、骨子があなたの語彙から離れて面接で浮くのを防ぎます。
実行例として、架空の学生Tさん(文学部3年)の場合。「ゼミの文献整理にAIを使った」から対話を始めると、「要約はAIに任せたが、引用する箇所の選定は原文に当たって自分で決めた。理由は、要約には解釈のずれが混ざるから」という切り分けが言語化されました。この一言は、道具の適応力と批判的な判断の両方を1つの事実で示します。使ったのはごく普通のAIで、特別な技術経験はゼロです。
90日でつくる:今学期の行動プラン例
「足りない類型を作る」を具体化するために、大学3年前期を想定した90日のプラン例を示します。すでに所属しているゼミ・サークル・アルバイトの中で完結する設計です。
- 最初の30日: 現状の記録を取る。いま関わっている活動の中で「面倒だと感じる作業」「誰も疑っていない手順」を5つ書き出す。この観察メモ自体が、後で「問いを立てた」ことの証拠になります
- 次の30日: 1つ選んで小さく変える。表計算での自動化でも、AIでの下調べの効率化でも、告知文の作り方の変更でも構いません。大事なのは、変える前の状態を数字か具体的な事実で記録しておくことです(例: 集計に毎週40分かかっていた)
- 最後の30日: 結果を確認し、人に広げる。効果があれば他のメンバーにも使ってもらい、うまくいかなければ原因を言葉にする。ここまでやると、道具の活用(類型1)・問いの設定(類型2)・巻き込み(類型3)が1つの実話の中に揃います
派手な成果は不要です。40分が10分になった、程度の変化で十分にガクチカとして成立します。評価されるのは規模ではなく、観察→仮説→実行→検証という進め方の再現性だからです。
変わらないもの:深掘りに耐える事実と、最終文責
最後に、この記事全体をひっくり返しかねないリスクに触れます。「AI時代に評価される経験」を目指すあまり、AIに経験談そのものを作らせる、あるいは実際より大きく盛るのは、この時代に最も破綻しやすい行動です。評価の重心が深掘りへの応答に移っているため、事実の裏付けがない話は、人間の面接官の「なぜ?」でも、機械的に深掘りしてくる対話型AI面接でも、以前より早く崩れます。企業側の選考でAIがどう使われているかは企業のAI選考の実態を確認してください。
AIは経験を作る道具ではなく、経験を掘り起こして言語化する相棒です。語る内容の最終責任は、いつの時代も本人にあります。そして評価される経験の材料は、意外なほど手元にあります。まずはガクチカの基礎の書き方で経験の棚卸しの型を押さえ、手持ちの素材を3類型に振り分けるところから始めてください。足りない類型を1つ選んで小さく行動を起こせば、数か月後のあなたのガクチカは、AI時代の評価軸にまっすぐ乗ります。