研究概要の設問で落ちる原因の大半は、研究のレベルではなく「読み手に届いていない」ことです。読むのは研究者ではなく人事で、企業が見ているのは研究の凄さより、複雑なことを分かりやすく伝える力です。この記事では、AIを「翻訳者」として使い、専門用語だらけの研究説明をESの言葉に変換する3ステップとプロンプト3本を解説します。
この記事でわかること:
- 研究概要で企業が評価しているポイントと、伝わらない原因の構造
- 通じない語の特定→平易化→文字数別圧縮の3ステップとプロンプト3本
- AIの言い換えが研究内容を歪めるのを防ぐ検証の手順
結論:研究はあなたが語り、AIには「翻訳」をさせる
研究概要でのAIの正しい役割は、文章を作ることではなく、専門の言葉と日常の言葉のあいだの翻訳を手伝うことです。分担を先に決めておきます。
| 工程 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 研究内容・事実の提供 | 自分 | AIはあなたの研究を知らない。内部知識で補わせると誤りが混ざる |
| 通じない語の特定 | AI | 自分では「どれが専門用語か」の感覚が麻痺している |
| 言い換え候補の生成 | AI | 比喩や日常語への変換は生成AIの得意分野 |
| 言い換えの正確さの判定 | 自分 | 平易化で研究内容が歪んでいないかは、専門家のあなたにしか分からない |
| 最終的な文章と提出の責任 | 自分 | 面接で深掘りされるのは自分 |
この分担を崩して「研究概要を書いて」と丸投げすると、それらしいが微妙に違う説明文ができあがり、面接の「もう少し詳しく教えてください」で本人の説明と食い違います。研究概要は本人が世界で一番詳しい題材なので、丸投げのメリットが最も小さく、破綻したときの不自然さが最も大きい設問だと考えてください。
なぜ伝わらないのか:読み手は人事、評価軸は「伝える力」
前提を2つ押さえます。第一に、ESの研究概要を最初に読むのは、多くの場合あなたの分野の専門家ではない人事や採用担当です。研究職の選考でも、一次の読み手が非専門であることは珍しくありません。第二に、企業がこの設問で見ているのは、研究テーマの市場価値よりも、論理的に考える力と、複雑なことを相手に合わせて説明する力です。
つまり「専門用語を正確に使った密度の高い説明」は、この設問では減点方向に働きます。書く順番の基本形は次の通りです。
- 何を明らかにしようとしている研究か(結論・一言サマリー)
- なぜそれが重要か(背景を日常の言葉で)
- 自分はどう取り組んでいるか(手法は「何をしているか」レベルで)
- 分かったこと・工夫した点(進行中なら計画と現状)
- この経験を仕事でどう活かすか(職種と接続)
構成はこれで固定してよいので、残る問題は各パーツを「通じる言葉」で書けるかです。ここからがAIの出番です。
ステップ1:通じない言葉を特定する
平易化の失敗パターンは、いきなり言い換えを始めることです。自分ではどの語が通じないのか判定できないまま書き直すので、「界面」「発現」のような、専門側では日常語すぎて気づけない語が残ります。まず特定だけをさせます。
あなたは理系の研究内容を就活書類向けに翻訳する編集者です。
目的: 私の研究説明のうち、専門外の人に通じない言葉を特定すること。言い換えはまだしない。
以下の説明を読み、
1. 私の分野を専攻していない大学生に通じない可能性が高い語を、通じにくい順にすべて列挙する
2. それぞれに「なぜ通じないか」を一言添える(概念自体が未知/日常語と意味が違う/略語・記号 など)
3. 逆に、専門用語に見えるが説明なしで使ってよい語があれば挙げる
制約: 言い換え案や書き直し文はまだ出さないこと。
【研究説明を貼る(研究室で普段使う言葉のままでよい)】
「言い換えはまだしない」の制約が設計の核心です。AIは頼まなくても書き直しまで進めようとしますが、その書き直しを先に見ると、自分の頭で「どう説明するか」を考える工程が飛びます。まず診断だけを受け取ってください。
実行例のイメージ: 「固体電解質の界面抵抗を低減する研究です」という一文に対して、「固体電解質(概念自体が未知)」「界面(日常語の『境界』と学術的な意味がずれる)」「抵抗(電気の文脈だと通じるが低減とセットでは硬い)」のように、通じない語が理由付きで並びます。多くの人はここで、1文に3〜5個も壁があったことに初めて気づきます。リストを受け取ったら、各語を自分ならどう説明するか、一度メモしてから次へ進んでください。
ステップ2:平易な言い換えをAIと作る
特定した語を1つずつ翻訳します。ここでのポイントは、言い換え案を複数もらい、正確さを自分が検証することです。
あなたは科学記事のライターで、専門的な内容を正確さを保ったまま一般読者に説明するのが得意です。
目的: 次の専門用語・概念の言い換え候補を作ること。
進め方:
1. 各用語について、言い換え候補を3案ずつ出す(日常語での説明/たとえ/働き・機能の説明、の3方向)
2. 各案について「正確さを犠牲にしている点」があれば正直に注記する
3. 私が案を選んだら、書き直しに進む前に「この言い換えで誤解が生じる場面はないか」を私に1つ質問する
用語リスト: 【プロンプト①で特定された用語】
私の研究の文脈: 【1〜2文で】
3方向で出させるのは、用語によって効く変換が違うからです。物質名は「働きの説明」(電気を通す固体の材料)が、プロセスは「たとえ」(部品同士の継ぎ目で電気が渋滞する)が効きやすい傾向があります。そして最重要なのが2番の注記です。たとえは必ず何かを捨てて成立します。捨てたものが研究の本質でないかを判定できるのは、AIではなくあなたです。「渋滞」のたとえが抵抗の仕組みとして誤解を生むと感じたら、その案は捨てる。この取捨選択の記録は、そのまま面接で「分かりやすく言うと◯◯ですが、正確には△△です」と答える材料になります。
ステップ3:文字数別に圧縮し、深掘りに備える
平易化した全文ができたら、設問の字数(400字・200字が典型)に圧縮します。圧縮と面接準備は同じプロンプトで一度に済ませます。
あなたは新卒採用で研究概要を読み慣れた人事担当者です。
目的: 以下の研究概要を指定字数に圧縮し、面接の深掘りに備えること。
進め方:
1. 以下の文章を400字版と200字版に圧縮する。優先して残す順番は「何を明らかにしたいか→なぜ重要か→自分が工夫した点」。手法の詳細から先に削る
2. 圧縮で削った内容を「面接で口頭補足する材料リスト」として箇条書きにする
3. この研究概要を読んだ面接官が聞きそうな質問を、非専門の人事の視点で5つ出す
制約: 研究内容の事実を追加・変更しないこと。数値・専門用語は元の文章にあるものだけを使うこと。
【平易化した研究説明の全文を貼る】
このプロンプトの狙いは、削る作業を「捨てる」ではなく「面接に回す」に変えることです。200字版で手法を丸ごと削っても、材料リストに残しておけば、面接の「具体的にはどう実験するのですか」に即答できます。出てきた5つの質問には、必ず声に出して答えてみてください。詰まった質問が、あなたの説明の弱点です。口頭で答える練習の進め方はAI面接練習のやり方をそのまま使えます。
AI翻訳の落とし穴:正確さはあなたにしか守れない
3ステップの途中で必ず起きる問題を2つ挙げます。
- もっともらしい誤り: AIが言い換えの勢いで、あなたの研究がやっていないこと(「実用化を目指し」等)を足すことがあります。生成された文に元の説明にない事実が1つでも混ざっていないか、必ず突き合わせてください。プロンプト③に「事実を追加・変更しない」の制約を入れているのはこのためですが、制約があっても混入はゼロになりません
- 平易化しすぎによる空洞化: すべてを日常語にすると「材料を混ぜて性質を調べる研究」のような、誰の研究か分からない文になります。研究の固有性を担う専門用語は1〜2語だけ残し、初出で一言説明する形が読みやすさと固有性の両立点です
どちらの判定も専門家であるあなたにしかできません。これが、研究概要でAIに任せてよいのは翻訳までで、最終文責は本人という原則の実体です。文章全体の仕上げの添削はAIでES添削する正しい手順の観点指定方式が使えます。
研究がまだ進んでいない場合の書き方
学部3年の早期選考や研究室配属直後で「書ける結果がない」場合も、この設問は成立します。書くのは結果ではなく問いと計画です。
- 何を明らかにしたい問いか(仮でよい。ゼミで扱ったテーマの延長で可)
- なぜその問いに興味を持ったか(授業・実験・文献のどの経験からか)
- どう進める計画か(手法の名前ではなく、何を調べて何と比べるか)
研究テーマすら未定なら、これまでの実験科目やゼミ発表で「一番考えた課題」を題材に、上と同じ構成で書けば、評価対象である考える力と伝える力は示せます。素材の掘り起こしには自己分析AIプロンプト集の深掘りプロンプトが流用できます。
ケーススタディ:桜井さんの研究概要ができるまで
材料化学専攻・修士1年の桜井さんの例です。最初の400字は「全固体電池における固体電解質/電極界面の抵抗低減に向けた表面修飾プロセスの検討」で始まる、学会要旨そのままの文章でした。
- ステップ1で通じない語を棚卸しすると、8語が列挙されました。本人が意外だったのは「界面」「修飾」が上位に来たことです。研究室では空気のように使う語ほど、通じない自覚が持てていませんでした
- ステップ2で「固体電解質」は働きの説明(電気を通す固体の材料)、「界面抵抗」はたとえ(部品同士の継ぎ目で電気が流れにくくなる現象)を採用。ただし「電気の渋滞」という案は、仕組みの誤解を招くとAI自身が注記したため却下しました
- ステップ3で400字版を作成。冒頭は「私は、次世代の電池を安全に長持ちさせるための材料研究をしています」に変わり、手法の詳細は口頭補足リストへ移動。生成された想定質問「なぜその材料に注目したのですか」に一度詰まり、研究室配属時の動機まで遡って答えを用意しました
かかった時間は2時間弱です。仕上がった400字は、専門用語が「固体電解質」1語だけ(初出で説明付き)になり、非専門の友人が読んで内容を言い直せるレベルになりました。ポイントは、AIが書いた文をそのまま使った箇所がほぼなく、AIの案を材料に本人が選択と修正を重ねたことです。
提出前チェックリスト
- 分野外の友人が読んで、研究内容を自分の言葉で言い直せる
- 残した専門用語は1〜2語で、初出に一言の説明がある
- 生成文に、元の説明にない事実・数値が混ざっていない
- 冒頭1文だけで「何の研究か」が分かる
- 想定質問5つに、原稿を見ずに口頭で答えられる
このチェックを通れば、研究概要は「読まれない密度の塊」から「深掘りを歓迎できる持ち札」に変わります。文章の型をさらに磨きたい場合はES添削の手順、対話で素材を掘る感覚をつかみたい場合はガクチカのAI壁打ち実例が次の一歩です。